下級てき住みやかに

暖かいラーメン屋と看板娘と営業マンと

 

ラーメンは体調を確認するバロメーター

 

濃い味を好む日、薄味を好む日、体調によって身体が求めてくる味が異なる。身体の不調もなく、味の好みが定まらなければ、『暖かいラーメン屋』へと決まって車を走らせる。

暖かいラーメン屋とは、勝手に僕がそう呼んでいるだけであり、もちろんそのような名前のラーメン屋ではない。

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ラーメン屋の暖簾を潜り、真っ先に雑誌コーナーへと向かう。最新号の少年ジャンプを手に取り、何食わぬ顔で座敷の方に一人で陣取る。

店側としては、カウンターを推し進めたいところ。でも個人的には、忙しい時間帯を外しているから、問題だとは思ってはいない。

いつものように、ニコニコしながら、20代後半ぐらいのラーメン屋の看板娘が、お冷やを運んでくる。

彼女は、首から自作の看板をぶら下げてオーダーを取りに来る。本当の意味でのラーメン屋の看板娘なのである。 

 

彼女が首にかけている看板には、こう書いてある。

『私は耳が聞こえません。オーダーの際にはメニューを指差して下さい。』

僕は、いつものようにメニューを指差し、そして、左手の甲から右手をタテに垂直に上げるようにして、彼女に対して『ありがとう』を添える。

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常連さんの行動に感化され、気が付けば、いつの間にか、僕もそうするようになっていった。

彼女は、耳が全く聞こえない。だから、必然的に喋ることもろくに出来ない。それでも、人前に出て自らオーダーを取る仕事を選んだのだと聞く。

店主が、昔、そっと話してくれた。

『耳も声も不自由な彼女が、履歴書を握って働きたいと尋ねにきたときのこと…。』

『彼女の心は自由で、目が輝いていたときのこと..。』

『店主と奥さんが、従業員を懸命に説得してきたこと...。』

『従業員が手話を覚え、コミュニケーションを自然に取るようになっていったこと....。』

嬉しそうに語る店主を見て、僕は、胸がとても熱くなる。だから、ここの店主の作るラーメンは、いつも暖かいと感じる。

アニメで見た『聲の形 こえのかたち』じゃないけれど、コミュニケーションは行動も含めて、それぞれの形なんだと思う。

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サラリーマンがお店に入ってくる。

そして、カウンターにゆっくりと腰掛ける。40代ぐらいだろうか、外回り営業の遅い昼食なのだろう。

看板娘が、お冷やを運び、看板に指差し、オーダーを聞き出そうとしている。すると、営業マンがすかさず口を挟む。

『ええっ、なんで?面倒くさ。非効率でしょ。オーダーを取るなら話せる人じゃないの?』

一人でぶつぶつと言いながら、面倒くさそうにメニューをドンと指差していた。

 

文字が読める立派な目があるならば、心情を読み解き、何も言わずメニューを押せばいいだけ…。

回転寿司であれ、ネットショップであれ、ホテル予約であれ、躊躇いもなくボタンを押下して注文を取り次ぐ時代。何の問題もない。

外人に声をかけられたら“アワワ、えへへ” になるだろうに、変なところでガッツリと喰いかかる。

 

うんこ営業マンだから仕方がないかも。

 

スーツの胸ポケットの会社名が書かれた名札は、あんたが外に出て戦う看板なんだよ。やれやれだ。

 

店主も従業員も何事もなかったように平然を装う。こういう光景も見据えて、彼女は注文係をかって出ている。客の悪口は、幸か不幸か彼女の耳には決して届くことはないが、怪訝な顔をされれば、誰だって嫌な思いもする。それでも…。

彼女自身が成長していかなければならないこと…。

従業員も見守らねばいけないこと…。

この店の厳格なルールであるならば、第三者である僕が口出しをすべきことではない。

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お金も、仕事も、地位も、名誉も、人間関係も上手くいかないことの方が多い。イライラも募る。ストレスも溜まり、口に出してしまう。

SNSでも、公共の場でも、見境なしに吠えたい衝動に駆られることもあるとは思う。

でも、どうでもいいことに無性にカッとなるのは、人の素性になんかじゃない。満たされない自分の心情を人に当て付けているだけなんだよ。

 

ラーメンを食べ終えて、伝票を持ってレジへと向かう。彼女が指で値段を補足する。

僕はお金を払い、アキバで見かけそうな『ニャンニャンポーズ』をしてみる。彼女がゆっくりと頷く。

呆けを取りにいっているわけでもない。“よくできました”と讃えるポーズらしい…。非常に恥ずいけど。

 

彼女の左手薬指の指輪…。

20:00ぐらいに旦那さんと子供が彼女を迎えに来る。お絵かき帳に『おつかれさま』と書かれたギリ読めるボードを掲げて『ママ』と駆け寄る小さな息子。

幾度かみた光景だが、キュンとくる。

 

ここは、本当に暖かいラーメン屋だ。

 

 

 

人は小さな小さな幸せを求めて、大切に生きようとしている。

どうでもいいような暴言は、所詮、どうでもいいようなこと。吐いた暴言は、ブーメランで倍返しで自分の方へと突き刺さる。逃げても逃げても不思議なくらいの公式でね…。

小さな小さな思いやり…。コントロールが悪いのかなかなか戻らないかもだけど…。同じ公式は当てはまると思うんだよ。

 

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