友人から相談の電話がかかってきた。
『子供の声が出なくなった..。どうすればいい?
どうしてよいかわからなくてさぁ…。』
精神的な問題で子供の声が出なくなったのだという。
しっかり見守ってやりなよ。
親が動揺しちゃいけないよ。
大丈夫。焦らずにゆっくりと。
友人からの電話を切ったとたん、娘から電話がかかり大声でドヤされる。
『父さん!!絶対に遅れないで。
電車に乗り遅れるから...。』
少しばかり怒り口調の電話。
駅まで車で送って欲しい模様..。
(。-`ω-) うるさいなぁ。
親の時間を何だと心得る..
車あるでしょ。ぶつぶつ..。
まぁいい。子供はうるさいぐらいが丁度いい。
実に心地がよいものだ。笑って許そう…。
”うるさい” は元気で明るい証拠。多分ね。(T ^ T)
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失声症という名の魔女の呪い
もう、5年ぐらいも前に遡る話。
友人から連絡を受け、昔のことを思い出していた。
娘が失声症になったあの日のこと。
高校3年の春頃だったと思う...。
『失声症』
声を発するための身体には、異常がないはずなのに声が全く出なくなる病気。
子供がふざけて嘘をついているのだと思っていた。
おとぎの国の魔女に、呪いをかけられてしまったような不思議な心の病。娘が完全に声を取り戻すまで半年を要してしまった。実に長かった…。
二度と同じ体験なんてごめんだ。(T ^ T)
反論しない人形と操り人形と
子供の頃から、人に合わせることが苦手な娘。
どこの世界にも派閥やグループがある。
子供達の社会に限った話ではない。
中高校生ぐらいの年代には、特にグループに拘る特有の性質がある。耳にする『スクールカースト』
上位層、中位層、下位層なんかのレイヤーに分割され区分される。
呼び名が欧米化しただけで、昔からある構図。
娘をスクールカーストの位置付けに、無理矢理に当てはめてみれば…。『異端児で傾奇者』何処に配置してよいのかわからない。
同じ年齢で、頭のレベルを合わせられる高校生活。
田んぼに囲まれて、蛙もたくさんゲコってる。
片田舎で、グループランクだの、誰が誰に気遣う必要があるのか?何を張りあいたいのか?
『上位層、下位層、とっても可哀想…。』
時代錯誤の生徒手帳の髪型を、忠実に守りぬく生真面目な公立高校の学生達。似たような髪型に容姿もどっこいどっこい。上位って何?首を傾げる娘の率直な意見だとは思えた。
しかし、親としてみれば、多少の空気を読んで、流れに身を任せつつも平穏に時が過ぎればと、しばし思うこともあった。
頑固で曲げない性格だから派閥には屈しない。
お約束の女子特有の連れション。
全面的に断固として拒否るから直ぐに揉めていた。適当に合わせつつ、鼻で笑ってやり過ごせればいいのにと何度も思っていたよ。子育てむずい…。
上位層の一人と衝突した時に、グループから SNS で一斉攻撃を受けた時がある。
ネットリンチといわれれば、その部類に該当していたのかも知れない。
- 昔は物理的なダメージで攻撃をする。
- 現代は精神的なメンタルを攻撃をする。
とても、地味でせこいワザップではあるが、脳にダメージが蓄積されるから深刻な社会問題だと思う。
送信する側もグループで行うため罪の意識も薄い。
自動変換される文字を選択してポチッとな…。指が反射的に脳の肩代わりをする。現代の虐めの線引きは本当に難しいのかも知れない。
ネットで伝える言葉は難しい。『馬鹿』いう文字も受信する側の気分次第で捉え方が変わる。
一時間前に受信したのならば笑って過ごせたかも知れない。数時間後だと激怒するかも知れない。人の感情はリアルタイムで乱れてくるものだからね。
グループには暗黙の掟がある。送信を拒絶するとハブられてしまうかも知れない。ターゲットが入れ替わってしまうかもしれない。
場当たり的に長いものに巻かれるべきか、啖呵をきってポリシーに従うべきか...。
正論や綺麗ごとだけじゃないのは当然のこと。くだらないと思いつつも共存しなければいけない社会。
確かに難しい判断もあると思える。全く持って、普通に生活するのも難しい。(T ^ T)
数十人からSNSを介して実名入りで、次から次へと悪口が突きつけられる。リアルタイム送信される情報を随時見せてくれていた。
『….。』
『反論してこないね。人形みたい。』
『人形….。』
『人形…。』
数十人から送信されてくる鳴りやまない文字列。グループ内で事前レビューして、一斉送信してくる類いだろう。
それでも、デジタル文字にデジタルで反論させることをさせなかった。多勢に無勢。火に油を注ぐ必要なんてない。放置が最善と踏んでいた。
しびれを切らしたのか、徐々に言葉がエスカレートしていく。
『死ねば…。』
『死ね…。』
『死ね…。』
娘のスマホが申し訳なさそうに画面一杯に『死ね』という文字を書き出す。
娘は一瞬で声を失った…。
そして..。『失声症』と診断された。
浴びせられる文字に反論せず人形と呼ばれてもいい。人だからこそ常に考えて欲しいと娘に問いた。
書きたくもない文字列に火の粉がかからないように便乗する操り人形にもなって欲しくはないと。
我が子に対して『死ね』と浴びせられた行為は、親にとっても辛すぎた。それでも、子供に伝えたい事もある。よく耐えてくれた。『ごめんね。』父さんもどう判断すべきか、ベストな選択がわからない。
仮に操られるのならば、潔く紐を切って、おどけながら操られているように見せていればいい。最低限のポリシーを持って…。
別に誰々が怖いという訳でもない。匿名ではなく実名で躊躇なく言われたことが、声を失うほどに精神的にショックだったと言う。
許容範囲を超えたショックは声をも奪う..。
気を付けて欲しいと切に願うよ。
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失声症を克服するまで
口パクで会話が成立しないから、先ずは筆談で会話するようになっていった。
娘が言うには(実際には紙に書いている)声の出し方を忘れてしまったような感じだという。かすれ声すら出せない。空気をどのように声帯に送り込んでいたのかがわからないのだという。
医師が曰く、抱え込んだショックの度合いによるため、完治するまでには個人差があるのだという。
数週間で声を取り戻す人から、1年経っても戻らない人。声を奪う魔法。Aphonia ガクブルだよ。
娘は学校を休まないと言った。偏頭痛で休みがちだったため出席日数を気にしていた。但し、学校には事前に経緯を説明して欲しいと頼み込んでくる。
声をかけられた際に、声を交わさなければプライドが許さないとのこと。無視したと捉えられることが嫌だから…。うん、そだね。
失声症になってから1週間は、取り急ぎ学校を休ませることにした。
誰から受信したという情報はマスクして『死ね』と書かれたスクショを、嫁が担任に見せて事の経緯を説明してきた。
電子文章は残る。子供達には絶対に人を傷つけるコメントだけは残すなと言いきかせる。
別に学校にクレームを挙げるつもりもない。子供の行動の結果論は、親の不徳の致すところ。変な娘に育ててしまって "ごめんなさい。"
学校側がどのように捉えて何を説明したのかはわからない。学校を休んでいる時に、日替わりで数人づつ家にきて謝罪しにきていたみたいだった。
ゲーム慣れしているご時世。『死ね』という言葉の使い方が少々軽いのかも知れない。しかし、時代の流れなんて関係ない。生きている全てに対して使う言葉では絶対にない。
失声症になって2ヶ月間は、全く声が出なかった。
娘の彼氏が、心配して『はじめてのあいうえお』みたいな本を買ってきた。
そういうことじゃないと思うよ。
♫初めての…。うけた。
3ヶ月目ぐらいから、小さくともかすれる声が出せるようになった。そして、完全完治するまで半年という月日を要した。
残暑が残る秋の晴れた日に行われた、高校生活最後の体育大会。応援団長をかって出た娘....。
『声出していけや!!』
うむむ...あんたが言うのかい?
父さん、ガッツリ涙出た...。
声を失わないでおくれ...。
うるさくてもいいから..。
あとがき
あまり聞きなれない失声症という病気。
許容範囲を超えたショックを受けた場合に、誰でもなり得る病気です。
友人の子供は、失声症で現在も奮闘中です。
すっかり忘れていましたが、友人に相談されて、誰かの役に立てば?と思い体験記を残してみました。
ストレス社会。もし、お子様が失声症と判断された場合には、焦らずにゆっくりと見守っていただければと思います。
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